本研究は、演技者から見た映画における「詩的身体」と、俳優が演じるという行為を通して「詩的身体」へアプローチするための「詩的演技身体」について考察することを 研究目的としている。「詩的身体」とは、ここで簡単に述べておけば、映画における特 定の記号──物語や意味──に回収できない俳優の身体のことを指している。それは演 出、演技者、キャメラといった異なる立場が相互に交流することによって生成する、偶 然性を備えた映画特有の現象である。「詩的演技身体」とは、演者が自己の主観的な心 理に基づいて主体的に表現するのではない、外部との相互触発から生まれる身体的感受 性を重視して演技する身体のことである。
研究方法として、「分析的」「応用的」「実践的」という 3 つの段階を設定した。
分析的研究においては、映画における詩的身体の創出、ならびに詩的演技身体によっ て詩的身体への接近を試みた映画の歴史的系譜を浮かび上がらせ、詩的演技身体を追求 するための哲学的・美学的基礎を整理した。
応用的な研究においては、詩的演技身体の探求を重視した演技論と俳優訓練術、また 詩的演技身体により方法論として定着させるための演出法を論じた。
実践的研究として、筆者は詩的演技身体を巡るワークショップや、詩的演技身体を通 して詩的身体にアプローチするための作品制作を実践した。