現在の補聴器は,ノイズ低減と高周波数帯域の増幅を行うものが主流である.これは,主に加齢による感音性難聴が,統計的に高周波域の可聴値が上昇して聴き取りが悪くなる傾向があるためだが,実は個人によっては摩擦音や破裂音,鼻音といった調音様式に応じて難聴の傾向が異なることが知られている.そのため,全てのユーザに対して特定の高域強調を行うだけの補聴器をつけても聴き取りが改善しないことが起こる.また,聴力を補うために音声認識によるテキスト書き起こしができるほど,話者が明瞭な発声を行うとも限らない.従って,発話内容が未知の音声を,感音性難聴の個性に合わせて強調することによって,聴き取りを改善する技術が求められる.そこで本研究では,異聴が無声子音及び通鼻音において多く出現するという既知の傾向に基づき,日本語音素を母音,破裂音,摩擦音,鼻音という共通する調音様式にクラス分けし(これを音韻クラスと呼ぶ),音韻クラスごとの音声強調を実現するために,分析フレームで切り出された音声波形をいずれかの音韻クラスに識別するアルゴリズムを提案する.提案する音韻クラス識別アルゴリズムは,ベイズ理論に基づく最大事後確率推定法である.本報告では,音響特徴量としてゼロ交差数,エネルギー及びスペクトル平坦度を用い,各音響特徴量を単峰の正規分布でモデル化する単純な混合正規分布を尤度関数用いた場合の実験結果を報告する.