本講演では、東京工芸大学「色の科学芸術センター col.lab」（カラボギャラリー）における色彩科学並びに色彩芸術に関する学術研究活動について紹介する。本学は、『メッセージを広く伝えたい』という人類普遍の文化を支える技術―写真及び印刷、版画（すべて英語でprinting）―の研究教育を標榜する学府として1923年に誕生した。カラボギャラリーは、古今東西のprinting技術を俯瞰しながら、技術が本来持つべき人や人の暮らしの全体を常に設計しようとする態度の重要性をメッセージとして発信している。
デカルトはその「方法序説」の中で、複雑な問題を部分に分割することと共に、分割された問題の解を順序立てて枚挙し総合する原則について述べたが、なぜか我が国は近代以来、専門化と細分化にのみひた走り極度の縦割り社会にあえいでいる。かつて我が国の音声認識技術は世界一を誇っていたが、現在国内で最も普及しているのはGAFAと呼ばれるアメリカの巨大IT企業の音声認識エンジンである。本講演では、なぜそのようなことに陥ってしまったのかを考察し、我が国の弱点を明らかにする。そして、カラボギャラリーの発信するメッセージこそが、我が国がその弱点を克服し、紙メディアを含めた科学技術が人のこれからのコミュニケーションを支える指針に他ならないことを指摘する。またさらに、総合力を養成する方法が実は音楽や美術で先行して究明されてきた点を指摘し、科学技術がそれを倣うことの有効性を解説する。