18世紀末に「ゴシックの女王」としてベストセラー作家となったアン・ラドクリフの小説は、現実逃避的な娯楽小説とみなされ, 文学的評価が低い傾向がある。しかし、異国で身寄りのない若い女性が追い詰められ試練にさらされる女主人公の姿は、実は18世紀英国に資本主義の拡大と個人主義の進展とともに法的権利を剥奪され、経済的自立の手段を失った女性の孤立と苦境を暗示していると考えられる。ラドクリフの小説に頻出する「母の喪失」と「母の発見」、および小説の結末は何を意味するのかを考察した。