作品・発表

基本情報

氏名 茂野賢治
氏名(カナ) シゲノ ケンジ
氏名(英語) SHIGENO Kenji

年月日(開始)

2019/06/30

年月日(終了)

2019/06/30

種別

学会発表(国内学会)

題名(事項)

生徒の極限の近接に対する見方の移行 ―Nagleの極限概念構築モデルによる中学数学関数授業の分析から―

概要

本研究の目的は,ナグル(2013)の「入門的極限概念に対する見方の構築モデル」の授業実践上での適用の可能性を探ることである。そのため,高等教育での正式な極限概念を学習する前段階の中等教育学校3年生の関数授業を対象として調査する。
 これまでの研究は, 生徒たちの極限概念の理解に対して極限計算や極限の概念定義を極限値の計算を行うことによる調査が主流であった(たとえば,カウの研究1991)。より最近では,極限概念に対する生徒たちの見方の不調和に対する研究がある。そこでは,微分学習における入門的な理解とε—δ定義を基本とする極限の正式な見方の不調和が指摘されている(たとえば,コットリルらの研究1996)。同様な研究として示唆されていることは,生徒の心の中で関数のアイデアを基本とする静的見方と動きを基本とする動的見方の二分裂があるので,指導は動的見方から静的見方へ次第に四つの段階を経ることが必要とする知見もある(ボエスター,2010)。これらの知見から一般的に,生徒たちの極限の入門的見方が正式な極限の定義に合っているとは言えず,生徒たちにとってはε—δ定義を説明することは難しいといえる。
 そこで,ナグル(2013)は動的見方から静的見方への移行ではなく,入門的微分学習における新たな指導原理を開発した。それは,極限概念に対する静的見方に動的見方を組み入れ,生徒の動的見方に支えられた静的見方によるよりよく正式な定義に合わせられた入門的極限概念の構築を図るための指導原理及びそのための活動である。
 仮にこの原理に従えば,極限概念の一つ近接に対する見方を動的見方に支えられた静的見方に生徒たちが移行することが可能になる。ナグル(2013)はまた,この構築モデルによる指導によって,極限の正式な定義に横たわるものを学習者が高等教育より早い中等教育段階で形成し始めることが可能なことを示唆している。一方,ナグル(2013)の指導原理の中等教育段階の授業をもとにした実証研究はほとんど散見しないので,筆者は上述の目的を設定し調査を行った。
中等教育学校9年生の関数授業の調査結果から, 動的見方に支えられた静的見方が二次関数曲線のグラフ上の異なる二点を結ぶ割線(線分)に対する生徒たちの授業中の発話から見いだされた。当初,生徒たちは極限の動的見方からグラフの割線と曲線の近接を説明していた。しかし,極限の動的見方では操作活動において説明に矛盾が生じ,極限の数学的妥当な説明にはならなかった。そこで,極限の動的見方による説明の矛盾を克服するため,生徒たちは極限の静的見方を持った説明に変えた。そこには,極限の近接に対して関数の接線を予測する発達した静的見方を持った生徒たちの活動があった。結果,生徒たちは数学的妥当性のある極限になりそうなものを語るようになったので,静的見方が動的見方に支えられた点とは, 操作活動による動的見方から静的見方に移行できた点であることが分かった。
 これらの結果から,多くの生徒たちは極限を動的直観的に解釈するかもしれないが,活動に注意を払えば動的概念は前進した数学として,入門的微分学習と極限の正式な見方の双方に沿うかたちで育成されることが示唆された。つまり,ナグル(2013)の指導原理の実証が示唆された。

発表場所(学会名、会場名等)

埼玉大学 全学講義棟1-206講義室

共同制作・発表者(名義)

 

受賞・表彰名

 

開催地(海外の場合は国名)

 

主催者

 

年度

2019

備考