列国金文書体は、春秋戦国時代以降に各地で多様化した金文書体総称である。特筆すべきは鳥蟲書で、字画を折り畳
んだり、具象モチーフを字形に加えたりした装飾的書体である。他に懸針篆、長脚篆等がある。 列国金文書体は現代へ続く書体デザイン始まりと言っても過言ではない。それ以前甲骨文や西周金文は、形特徴 を素材と道具に依存している。甲骨文鋭利な直線は骨や刃物に、西周金文丸みは粘土に由来する。一方、列国金文書 体は同じ青銅器銘文であっても表情が様々で、更に、越王石剣鳥蟲書ように、素材が変わっても形を保つ。ここから、 文字造形が非言語印象を伝えることを自覚し、それをコントロールする意図、すなわち文字をデザイン対象として捉える意識萌芽が読み取れる。 加えて、列国金文書体は同一エレメント(文字を構成する部品)形が統一されている。これは、部分デザインを各字形へ展開するに必要な、書体デザイン基本である。こように、列国金文書体は書体デザイン始まりと位置付け られるとともに、現代デザイン書体へ発展しうる規則性がある。
漢字書体デザインは、筆書体や活版印刷書体を下敷きにすることが多いが、文字形による非言語伝達重要さを考 えると、雑体書をないがしろにはできない。列国金文書体造形が現代においてどような機能を果たすか検証も、書 体史研究上意義があると考えられる。
列国金文書体を書体デザインに展開するにあたっては、『殷周金文集成』から、製作国が明らかであること、残存する 字種が多いこと等から書体を選び、蔡国銘文をモデルとした。
蔡国金文は、鋭い直線と曲線からなる。字画が簡潔なために、繊細ながら芯強い印象である。エレメントデザインを各字形へ展開するために、字画を幾何形態へ読み換えた。今回発表では、これによる展開可能性拡がりと、複雑さ を捨象することによる印象変化を検討する。